XR(VR/AR/MR)と聞くとまだまだエンターテイメント向けのコンテンツを思い浮かべる方が多いかもしれませんが、ビジネス向けの利用も近年加速しています。
その代表的な例として、医療分野はVRの活用が特に進んでいる分野の一つです。
今回は医療×XRというトピックに絞り、国内・海外の事例を紹介していきます。
活用例1: 手術シュミレーション・データ活用
Holoeyes
HoloeyesXR

Holoeyesは実際の医療現場で活用されているVRサービスを提供する日本発のスタートアップです。HoloeyesVRは今まで十分に活用されることのなかったCTやMRI画像を3Dデータ化しVR空間内で表示させることで、2D画像でしか判断できなかった患者の状態をより直感的に把握することを可能しました。
またHoloeyesXRというサービスも提供しています。
専用サイトにCT画像から作成されたポリゴンファイルをアップロードすると、VR/MR用のアプリがHoloeyesXRにより自動生成され、利用者はそのアプリをダウンロードして実際の医療現場で使用するといった流れです。
このアプリは術前手術計画や術中でのコミュニケーション、遠隔地間での症例カンファレンス、映像を使った教育など様々な場面に役立てられています。
参照: Holoeyes
活用例2: VR手術トレーニング
FundamentalVR
Fundamental Surgery


FundamentalVRは、VRトレーニングとデータ分析プラットフォームを手がけています。同社の提供する「Fundamental Surgery」は、手術のトレーニングをVR上で行うもの。専用のコントローラーを用い、触覚技術も取り入れています。
視覚だけではなく、触覚技術も活用することで実際の手術をよりリアルに再現することができます。模擬手術では解剖体や道具などがコストとしてかかりますが、バーチャルで行う場合はVR機材しかコストとしてかからないため大幅コスト削減が見込まれます。未来ではVRで手術の練習をすることが当たり前になっていくかもしれません。
活用例3: 病院VRトレーニング
Oxford Medical Simulation

新型コロナウイルスの流行が続く中、欧米などの医療現場では圧倒的な人手不足が叫ばれています。これを受け、米国とイギリスに拠点を置く(OMS)は病院等にVRトレーニングを無償提供し、元医療従事者を現場に呼び戻すサポートを行います。
OMSが手掛けるのは、医療スタッフ向けのVRトレーニングです。およそ100にものぼるシナリオを準備し、医師や看護師が患者の対応を訓練できます。患者への診断や、周囲へアドバイスを仰ぐといったユーザーの行動に基づき、シナリオの進行は変化。患者の容態も、悪化や軽快といった異なるパターンを見せます。実際の現場のようなリアルな体験を積むことで、効果的に学習できることが特長です。
VRトレーニングの有効性は、学習効率だけではありません。感染防止のために”socialdistancing”が求められる状況下、学習者が集まらず、自宅でも学べるVR訓練は最適とも言えます。
活用例4: 看護学科で学ぶ内容をVRで再現
イマクリエイト×京都大学大学院医学研究科
「ナップ:診察」

「ナップ:診察」は、VRトレーニングツールを開発するイマクリエイトと京都大学大学院医学研究科が共同開発した医療実習用バーチャルトレーニングです。
「ナップ:診察」は、体の動きをバーチャル空間に可視化する技術「ナップ」を活用して開発。実際の医療現場に立つ医師の動きをバーチャル空間に表示し、体験者は体を動かしながら腹部触診・胸部聴診・膝蓋腱反射の診察技術を学びます。体験にはVRデバイス「Oculus Quest 2」を使用します。
現在、看護学を学ぶ学校でも対面で授業が行えない場合が多いですが、看護学科で学ぶことをVRで再現することで高い没入感により、自宅にいながら学校での実習に近い質の高い学習が行えるようになります。
参照: ナップ診断
活用例5: 手術の痛みを緩和するVR
Psious

Psiousは、社交不安障害によって引き起こされる恐怖や不安を軽減させるVRサービスを提供しています。
他者との会話などに大きな不安や恐怖を感じ、動機やパニック発作を起こしてしまう社交不安障害(social anxiety disorder)、その認知行動療法の1つに「行動実験」というものがあります。不安や恐怖を感じる行動をあえて行い、不安感を軽減していく手法です。
VRを活用することで、リソースを最小限に抑えつつ、リアルに近いシチュエーションで、他者との会話やプレゼンテーションなど、恐怖や不安を感じる行動を実験することができます。Psiousでは、患者はVR空間のバーで他者と会話をしつつ、恐怖や不安を軽減させていきます。
メンタルヘルス分野に関してもVRの導入は進んでおり、高い没入感を体験できるVRとの相性は良いと言えます。患者にとっていきなり対人で練習するのは大変ですし、バーチャルでリアルに近いコミュニケーションの練習ができるというのは嬉しいことだと思います。新たな治療方法の1つになっていくでしょう。
参照: Psious
活用例6: リハビリVR
Neuro Rehab VR

米テキサスに拠点を置くが開発しているのは、事故の後遺症などからの回復を支援するVRリハビリ・ソリューションです。
事故などで大怪我をした患者の多くは、トラウマを抱え、以前と同じ身体機能を取り戻すのは無理なのではないかと心理的な障壁を持つことがほとんどです。通常であれば、理学療法士がこの心理的障壁を取り除くために多大な時間を費やすことになります。一方、VRの場合、患者の心理的障壁を取り除くまでの時間は大幅に短縮されるそうです。
VR空間で患者は、ショッピングや料理をこなし、日常の感覚を取り戻していくことになります。既存のリハビリでは、施設内の他者の存在が気になり集中できないことも多々あるようですが、VR空間ではそのようなことはなく患者の集中力は高まる傾向があり、リハビリの進行も速くなるようです。
参照: Neuro Rehab VR
活用例7:災害医療の現場を遠隔地から支援
KDDI株式会社×防衛医科大学×株式会社Synamon

KDDI株式会社と防衛医科大学校、株式会社Synamonは第5世代移動通信システム(5G)とVRを医療分野で活用する実証実験を行いました。
災害の現場に高精細の360度カメラを設置するとともに、5Gの回線を使用して撮影した映像をVR空間に配信。医師や消防士といった専門家らがVRを介して現場と密なコミュニケーションを図り、指揮や支援に生かすというものです。
KDDIは、従来は全体像をつかみづらい課題があったとした一方で、「遠隔地からでも現場にいる職員に対して指示を出すことが可能となり、救命活動を円滑に進められることを確認しました」と有効性をアピールしました。
この実証実験では、KDDIは5Gエリアの設計・構築を担当。VR企業であるSynamonはVRコラボレーションシステムを担当し、マルチデバイス対応、複数人の同時接続のために同社の「NEUTRANS」を提供しました。また、防衛医科大学は実験場所の提供と効果の検証を行いました。
同社らは医療教育のためのコミュニケーションツールとしての活用も実験。防衛医科大学が持つ、爆発による負傷の治療技術の研究設備である「ブラストチューブ」について、VRでの設備見学やディスカッションなどに、VRが使用されました。

参照:
記事:永峯 太陽