今日、VRのビジネス活用が進んでいますが、教育分野においてもVRは親和性が高く、多くの導入事例があります。
今回は「教育×VR」に焦点を当てて、活用事例をそのメリット・デメリットとともに、紹介していきます。
VRを教育分野に活用することのメリットは主に次の5つが考えられます。
- 能動的学習による高い学習効果
- 場所に依存しない
- 高い再現性
- ゲーム感覚の体験によるモチベーション維持
- 現実に近いシミュレーションにより即時対応力が身につく
一方で、デメリットとして初期費用のコストの高さが挙げられます。
次に、具体的な活用事例を紹介していきます。
活用例1:英会話
英会話学習にVRを用いることで、現実に近いシチュエーションを何度も繰り返し練習することができ、高い学習効果が見込めます。さらに、アバターを用いて学習することで、恥ずかしがらず発音や言い回しの練習ができるといったメリットもあります。
Smart Tutor
PlusOne社が開発するSmart Tutorは、AIとVRシステムを掛け合わせたVRトレーニングシステムです。
VR空間内でプレゼンテーションの実践的な練習が可能で、また、AIにより生徒のスピーチを発音や流暢さ、スピーチのペース、態度など7項目の評価指標でリアルタイムに分析することで、スピーチの内容を客観的にスコアで測ることができます。

「TORAIZ(トライズ)」や「スパルタ英会話」など、既に多くの英会話教室で導入されており、また、VR空間内でのシナリオを作成できるツール「WebTool」も提供しており、英会話スクールは独自コンテンツをVRコンテンツに変換し、各生徒へ提供することが可能です。
サービス内では、AIを搭載したヒューマンホログラム「Holosapiens」がVR空間内で、英会話のレクチャーを行ってくれます。
また、教師も「WebTool」上から生徒の練習状況や評価指標のトラッキングを行うことで、生徒の指導に生かすことができます。
PlusOne:https://www.plusone.space/
参照URL:https://jp.techcrunch.com/2018/05/23/developer-of-smart-tutor-fundraising/
活用例2:校外学習・社会科見学
Google Expedition
Google CardboardのようなVRキットを用いて世界中の観光地や名所を周ることができるサービスです。
教師がガイド役になり、生徒たちに説明をしながら、世界各地の名所の360°画像や3DCG画像を見ることが可能で、これにより、生徒たちは学校にいながら校外学習が可能になります。
アプリ内では、エベレスト山やルーブル美術館など、900以上のVR探索ツアー、100以上のAR探索ツアーが用意されています。
教室用のキットも用意されており、生徒数10人、20人、30人用の3種類あり、1つのキットに教師用と生徒用のデバイス、VRビューア、充電器、デバイス同士を接続するためのルーター1台が含まれています。
また、「ツアークリエーター」を利用すると、自身で撮影した360°画像やCardboardで撮影した写真、Web上のストリートビュー画像を用い、教師や生徒が独自の校外学習やVR探索ツアーを作成することができます。
Google Expedition :https://youtu.be/3MQ9yG_QfDA
サービスサイト:https://edu.google.com/intl/ja/products/vr-ar/expeditions/?modal_active=none
活用例3:学習教材コンテンツ
武蔵野大学付附属千代田高等学院
武蔵野大学付附属千代田高等学院では、授業にVRを導入した場合の学習効果を測るための実証実験として、ディスプレイ型のVRシステム「zSpace」を活用し、学生たちが「津波」をテーマに地震が発生するメカニズムを学びました。
zSpaceは3D偏光グラスと液晶ディスプレイ、スタイラスペンからなるVRシステムで、北米や欧州、中国などでは既に多くの教育機関で導入されています。しかし、日本での事例は未だなく、今回の実証実験が国内でのzSpace活用の初めての試みでした。
地球の構造をモデル化し、プレートを分離して観察できるコンテンツを用い、地震発生のメカニズムを学習しました。
VRシステムを活用することで、生徒は視覚的に学習内容を理解できるほか、本来観察することが難しい部分を詳しく分解して観察でき、こうした能動的な操作が生徒の学習効果を促進させると期待されています。
zSpace:https://jp.zspace.com/
参照記事:https://www.watch.impress.co.jp/vr/news/1099272.html
活用例4:STEM系コンテンツ(実験など)
アメリカでは特に政府が進めているSTEM教育(※)との相性の良さもあり、VRを用いたヴァーチャル実験室など様々なVR教育コンテンツの開発が進んでいます。
(※)
STEMとはScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)のそれぞれの単語の頭文字をとったもで、科学と数学を土台として展開する科学技術人材育成を行おうというアメリカの教育方針のことです。
Labster VR
LabsterVRはGoogleと科学関連の教育を扱う企業であるLabsterによって開発されたアプリケーションで、30種類以上ものVR実験室を利用できます。学生は24時間いつでもこの実験室にアクセスでき、専門分野に応じ実験用設備が用意されており、実際の実験室で行う作業がこのアプリのVR空間内で可能になっています。

実験室は専門的な設備が必要で多額のコストがかかってしまい、そのような問題を解決する手段としてVRが活躍しています。
VRを使うことで実験室を利用する人数や、場所、時間の制約も無くなり、できるだけ多くの学生に時間を気にすることなく利用してもらうことが可能になり、さらに、分子レベルで現象を観察できたりと現実世界では不可能な体験までできるので、より直感的に学生の理解を深めることに繋がります。
LabsterVRはアリゾナ州立大学の生物学の学士プログラムなどに採用されるなど、現在北米地域を中心にすでに実用化も進んでおり、今後は世界的な普及を目指して行くそうです。
Labster VR: https://www.labster.com/vr/
活用例5:実習系教育コンテンツ
大学では、医学や建築分野などの内容を実践的に学べるコンテンツとしてVRが多く利用されています。
The Stanford Virtual Heart(スタンフォード大学)
The Stanford Virtual Heartはスタンフォード大学で開発された心臓について学ぶ学生や医者と患者とのコミュニケーションをより簡潔にするためのVRコンテンツです。
心臓をVRにより3D映像化し、様々な向きから観察したり、部位ごとに分けて見たりと心臓の細かな部位、構造まで詳しく見ることができます。
このコンテンツを利用することで、学生はより深く心臓について学ぶことができ、医者もより正確に、わかりやすく病状の説明を患者にすることが可能になりました。
The Stanford Virtual Heart:https://www.stanfordchildrens.org/en/innovation/virtual-reality/stanford-virtual-heart
教育分野でのVR活用に近い事例として、研修分野での活用事例もこちらの記事で紹介しているので、ぜひご覧ください。
参考URL:https://xrbizmag.com/archives/261
まとめ
このように、教育分野でも様々な形でVRが活用されており、多くの効果をもたらしています。
どの事例の場合もVRを用いることで、一方的に教えられていた内容が体験として学習され、より視覚的でリッチな記憶として定着することができます。また、能動的な学習姿勢になることで、より高い学習効果を得ることができるという大きなメリットが存在します。
デメリットの初期費用コストの高さは、デバイスの進化により解決されていくと予想されるため、今後より教育分野でのVR活用が加速化していきそうです。
記事:中町諒佑