一口にVRコンテンツといっても様々な種類が存在します。
今回は、VRのソフトウェアに関して詳しい違いを見ていきます。
まず、VRのソフトウェアには主に360°画像で作られるタイプと3DCGで作られるタイプの2種類存在します。
今回はこれら2つのタイプでの違いや、活用場面などについて紹介していきたいと思います。
まず、VRコンテンツを作るにあたって、このどちらを利用すべきかは、どのような体験をVRで再現したいかに依ります。
こうした判断の助けになるよう、それぞれのメリット、デメリット、主な活用場面について紹介していきます。
360°画像で作るタイプ
このタイプは360°カメラで撮った画像があればコンテンツは完成します。
そのためコストが低いという大きなメリットがあります。
一方で、VR空間は写真の視点のみになり、空間内でモノや自分を動かすことはできないので、実現できる体験は3DCGで作るタイプに比べて大きく制限されるデメリットもあります。
<活用場面>
不動産(物件の内見)
NURVE
NURVE株式会社は物件を探している利用者にVRを利用してもらうことで、実際に物件に行かずに内見ができる「VR内見」というサービスを提供しています。
このVR内見により、不動産屋で意思決定ができるようになるため、従来の部屋探しに比べて、移動する負担や時間、コスト削減などのメリットが生まれました。
こういったVR内見のサービスの需要は高く、これまでに「VR内見」を始め、全景株式会社の「ZENKEI 360」、グリー株式会社の「InsideMaps」、リクルート社の「SUUMOスコープ」などがあります。
実際の物件の360°写真をVR空間内で体験することで、よりリアルな体験が可能になっています。
360度カメラを利用することで、部屋の様子を一度に記録することが可能になります。数多くの物件を要する不動産業界では、労力やコストが低い360°画像は活用のメリットが高いと言えます。
NURVE:https://www.nurve.jp/naiken/
観光PR
JNTO
日本政府観光局(JNTO)は、2018年1月16日から、欧州5カ国をに向けて、訪日外国人をターゲットにしたプロモーションの一環として、360°VR動画「JAPAN - Where tradition meets the future」をYoutube上で公開しています。
動画の中では、東京タワーや伏見稲荷大社、小笠原諸島のエンジェルロードなどの観光名所に加え、UFOキャッチャーや、回転寿司、歌舞伎など、多様な日本文化を紹介しており、手軽に日本旅行を疑似体験できるようになっています。
このように観光分野では、360°画像を利用したVR映像を用いることで、旅行前に観光地の疑似体験することが可能になり、実際に行った時のギャップの解消やプロモーションなどに効果を発揮しています。
YouTube:https://youtu.be/OR_Y7vj66PU
宿泊施設のPR
じゃらんnet
2018年10月、国内最大級の旅行サイト「じゃらんnet」は、株式会社リコーが提供する360°全天球イメージをWebサイトに表示できるクラウドサービス「THETA 360.biz」の採用を発表しました。
これにより、Webサイトを訪れるユーザーは宿泊施設のあらゆる角度からの360°写真を確認できるようになります。
また、宿泊施設側で撮った360°写真も、じゃらんnetに掲載できるようになります。
このように360°写真により、利用者はより実際に近い映像を確認した上で予約することが可能になり、さらに、実際に行った時の感覚とのギャップも小さくなると思われます。
参照記事:https://jp.ricoh.com/release/2018/1017_1.html
大学のPR
早稲田大学
早稲田大学は2019年3月英語でのVRキャンパスツアーサイトを公開しました。こちらのサイトではキャンパスの様子を360°映像で体感できることに加え、学生による英語での解説や各施設やイベントのフォトギャラリーも閲覧することができます。
このように海外や県外などキャンパスから遠方に住んでいるため、キャンパスに訪問することが難しい学生を対象に、実際に訪問することなく、リアルなキャンパスの雰囲気を感じるもらう手段として360°画像を利用したVRサービスは非常に有効だと言えます。
早稲田大学以外にも、電気通信大学、東京工科大学、同朋大学など様々な大学がVRキャンパスツアーを実施しています。
早稲田大学VRキャンパスツアー:https://www.waseda.jp/top/news/64002
企業のPR
楽天株式会社
楽天株式会社は、YouTube上にVRのオフィスツアー映像を公開しています。
オフィスの各フロアを実際に自分が歩いているかのような体験ができ、自分が会社で働いているイメージが沸きやすい内容になっています。
特に就活生は、時間や距離の関係でオフィスに行ける企業が限られる中、こうしたVRサービスを利用することで、実際に移動することなく、オフィスをリアルに体験することができます。
企業にとっても、採用のプロモーションや、入社後のミスマッチングの解消に役立てられそうです。
VRオフィスツアー|楽天株式会社:https://youtu.be/mg5E_LxU3Do
3DCGで作るタイプ
こちらは3DCGモデリングを行いコンテンツを作るタイプです。すべてのコンテンツを3DCGでモデリングする必要があるので、高いコストと開発のハードルがデメリットとなってしまいます。
一方で、空間をすべて3DCGで製作しているので、空間内でモノを動かしたり、また現実には存在しない、体験が難しい内容のシュミレーションができるという大きなメリットがあります。
主に、商品や建築物の設計や、研修、シュミレーション、コミュニケーションなどに関するVRサービスで3DCGが活用されています。
<活用場面>
設計
SYMMETRY
3DCGを活用したVRコンテンツの利用方法として、VR空間内での建築物や製品の設計があります。
SYMMETRYは建築や製造、土木分野での設計をVR空間内で行えるソフトウェアを開発しています。
3DCADデータを変換してVRに自動変換し、実寸大で確認することができます。
空間内を自由に移動することが可能で、設計や内装のパターン切り替えや、距離や面積の測定、時間による日光の調整など様々なシュミレーション機能も備わっています。
また、同じモデルをSYMMETRYに読み込むことで、オンラインのVR空間内で、複数人でのモデルレビューが可能です。
さらに、レーザーポインターやVR空間内の撮影が可能なカメラ機能、メモ機能などのコミュニケーション機能も充実しています。
このように3DCGをVRコンテンツに活用することで、完成前の製品や建築などの設計やレビュー、シュミレーションが、空間上でよりリアルに近い体験として行うことが可能になります。
SYMMETRY:https://symmetryvr.com/jp/
参照記事:「不動産×VR」https://xrbizmag.com/archives/662
研修・シュミレーション
積木製作
ディベロッパーや建築事務所向けに建築CGパース製作やCGアニメーション製作を行う積木製作は2016年に「安全体験VRトレーニング」という建設現場での安全教育を目的としたVRコンテンツをリリースしました。
建築現場での労働災害をVRで再現、体験できるサービスで、コンテンツのラインナップは仮設足場からの墜落などといった建設現場での危険体験に特化した内容のコンテンツ、配線作業中の感電、製造現場での巻き込まれ体験など多岐に渡ります。
墜落、落下、挟まれ、火傷といった現実では再現が難しい体験をVRにより体験することで、従来のビデオを使用したトレーニングでは感じづらかった危機感、恐怖感を再現することに成功し、またそれによる安全意識の向上を図っています。
このように3DCGを利用することで、VR空間内に現実には存在しないもの、体験できないものを再現することができます。
積木製作:https://youtu.be/ZoRa1jSkSMc
Holoeyes
Holoeyesは実際の医療現場で活用されているVRサービスを提供する日本発のスタートアップです。HoloeyesVRは今まで十分に活用されることのなかったCTやMRI画像を3Dデータ化しVR空間内で表示させることで、2D画像でしか判断できなかった患者の状態をより直感的に把握することを可能しました。
また同社は今年4月に新サービスHoloeyesXRをリリースしました。
専用サイトにCT画像から作成されたポリゴンファイルをアップロードすると、VR/MR用のアプリがHoloeyesXRにより自動生成され、利用者はそのアプリをダウンロードして実際の医療現場で使用するといった流れです。
このアプリは術前手術計画や術中でのコミュニケーション、遠隔地間での症例カンファレンス、映像を使った教育など様々な場面に役立てられています。
このように、これまで2Dでしか確認できなかった画像を3Dデータ化することで、VR空間内で現実に近い形で確認できるようになり、それらを空間内で共有することで、話し合いや研修がより効率的に行えるようになりました。
Holoeyes:https://holoeyes.jp/
コミュニケーション
NEUTRANS BIZ
このXR Biz Mag.を運営する株式会社Synamonでは、ビジネス向けVRコラボレーションサービスとして「NEUTRANS BIZ」を開発、運営しています。
NEUTRANS BIZでは、VR空間を複数人で共有することで、ディスカッションやブレインストーミング、デザインレビューといった、インタラクティブなコミュニケーションを行うことができます。
パワーポイント資料や、3Dモデルなど、ビジュアルイメージを共有することもできます。

このように3DCGにより空間を再現することで、没入感や臨場感が生まれ、実際に会うことがなくとも、複数人でコミュニケーションを図ることが可能になります。
また、アバターを使用することで、発言が増えたりなど、コミュニケーションが活性化する効果もあるようです。
NEUTRANS BIZ:https://neutrans.space/biz/
参照記事:「 研修×VR」https://xrbizmag.com/archives/261
まとめ
このように、同じVRコンテンツでも360°画像を利用したものと3DCGを利用したものでは、製作方法も用途も全く異なってきます。
例えば、同じ不動産領域で利用する場合でも、物件の内覧が目的ならば、実際の物件の360°画像のVRサービスを利用し、未完成物件の確認やシュミレーションが目的ならば、3DCGでゼロから建築物を設計してVR空間内で再現する必要があります。
360°画像、3DCGそれぞれで、コストや開発のハードルなどのメリット・デメリットは存在しますが、VRサービスを利用する目的を明確化し、その目的に応じ、最も適した手法を選択する必要があります。
記事:中町諒佑